『十海怪奇譚』キャンペーン_第零話(GM:ぽぽ)
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キャラシート
PC1 《キツネツカレ》仁奈川 伊由
(キャラシート)(PL:めかぶ)

PC2 《ショット・ガンダースン》露野 勲
(キャラシート)(PL:ロケット商会)

PC3 《九生篝火》壱条ゆゆ
(キャラシート)(PL:アスハル)

PC4 《笑面虎》風見将吾
(キャラシート)(PL:クオンタム)
目次
■トレーラー
GM:それではキャンペーン『十海怪奇譚』を始めたいと思います。
GM:その地には神が棲むという。
GM:むかし、腹を空かせた旅人に若者が飯を振る舞った。
GM:旅人は大層喜び、若者に宝を授けたという。
GM:浜辺に光り輝く羽衣を来た天女が降り立ったという。
GM:人を喰らう獣が眠るという。
GM:それらは全て、この地に伝わる説話である。
GM: 星見塔胡『十海怪奇譚』より
■第零話sideB 十三年前『夏の話』
GM:その年の夏、子供達の中で噂は静かに広がっていた。
GM:殺された動物の噂。
GM:鎮守の森に出没する怪物の噂。
GM:願いを叶えるマユラ様の噂。
GM:どれも取るに足りない子供騙しの噂話。
GM:
GM:でも、それは。
GM:夏祭りの夜を楽しむために必要だったのだ。
GM:普段は静かな参道には屋台が並び。
GM:提灯や灯篭の灯りは夜を照らしていた。
GM:スピーカーから流れる祭囃子やお知らせのアナウンス。
GM:祭りを楽しむ人々の騒めきが君達の心を否応なく昂らせている。
GM:大鳥居の前で君達は待ち合わせをしている。
壱条ゆゆ:「あっ! もー、おっそーい!」
壱条ゆゆ:誰よりも早く来て、そわそわと待っていた。手を振っている。
露野 勲:「っていうか、壱条が早いよ……」 人込みのせいでふらふらになりながら、待ち合わせ場所にたどりつく。
風見将吾:「そうだ。俺たちは時間通りに来ている。壱条が早すぎるんだ」
露野 勲:「これでも急いだんだけどね……。自転車止める場所がぜんぜん無くて……」
風見裕二:「兄ちゃん、待ってよぉ」
壱条ゆゆ:「なってなーい! おいてっちゃうところだったんだから!」
風見将吾:「裕二も情けない声を出すな。男だろう」
風見裕二:「えー、だって」
風見将吾:「壱条は逆にもう少し女らしさを身につけろ。もうすぐ中学なのにいつまでガキ大将のつもりなんだ?」
壱条ゆゆ:腰に手をおいて、肩を上げるジェスチャー。きっちり着付けられた和服は、もう裾が乱れ始めている。
風見将吾:「着付けもなっていないぞ。振る舞いがガサツだから服装も乱れるんだ」
露野 勲:「し、将吾、やめなよ! 壱条が怖いよ」
壱条ゆゆ:「お母さんみたなお小言いうのはこの口か~!」
壱条ゆゆ:うりうりと頬を掴んでひっぱる。
壱条ゆゆ:壱条の方が少しだけ背が高いのだ。成長期が早い!
風見将吾:「やめろ! 女が異性に軽々しく触れるな……! そういうところだぞ!」
???:「お?なんだ喧嘩か~?」
GM:そんな君達の方へ一人の少女が近づいてくる。
GM:小学生である君達よりは年上、高校生くらいだろう。
GM:九段美優紀は君達の面倒をよく見てくれるお姉さん的な存在だ。
壱条ゆゆ:「あーっ! みゆきちゃん!」 ぱっと将吾から手を離し、現れたお姉さんに抱きつく。
九段 美優紀:「やあやあ、ゆゆちゃん。浴衣がお似合いだねえ」
露野 勲:「あっ! ……い、いや、これはそういうのじゃなくて……!」
露野 勲:「こ、こんばんわ……」
風見将吾:「九段先輩。こんばんは」 背筋を伸ばして挨拶する。
壱条ゆゆ:「でしょでしょ! へへー」
九段 美優紀:「将吾~、また小難しい事言ってんのか~?」
風見将吾:「小難しくなんてありませんよ。礼節を重んじているだけです」
九段 美優紀:「ま、礼儀正しいのは良い事だよ、流石は道場の跡取り」
風見将吾:「それに、男に生まれた以上は堂々としなくては」 おどおどしている勲くんを呆れた目で見ている。
露野 勲:「そうだね。……将吾のところは厳しいから……」
九段 美優紀:「勲
九段 美優紀:「ちょっと気が弱いかもしれないけど、そこが勲の良いところじゃん」
GM:どさり、と手に持ったビニール袋を縁石の上に置く。
露野 勲:「え、あ、あっ、ありがとう……ございます……」
九段 美優紀:「はい、かき氷。好きなの選びなよ」
露野 勲:「あっ。かき氷……!」 他のみんなを見る。
風見裕二:「僕、メロンがいい」
風見将吾:「いくらですか? 裕二の分も払います」
壱条ゆゆ:「やたっ! あたしあおいやつだからね!」
壱条ゆゆ:「みゆきちゃん大好き~」
風見将吾:「遠慮という言葉を知らないのかこいつは……」
露野 勲:「裕二くんは、どれにするの?」
露野 勲:「あ、メロンか……」
九段 美優紀:「あんたも大人しくご馳走になっときなって」
九段 美優紀:「ここは年上の奢りなのだよ、わはは」
風見将吾:「……わかりました。勲、裕二のことは気にせず先に取ってくれ。年功序列だ」
風見将吾:「僕らは余ったやつにする」
風見裕二:「メロン…」
壱条ゆゆ:「将吾んちは堅すぎだもーん」
露野 勲:「……大丈夫だよ。ぼくはぶどうが好きだから、こっちにするよ」 紫色のかき氷を手に取る。
風見将吾:「勲は気を使いすぎだ。もう少しわがままになってもいいと思うんだけどな……裕二、メロンが余ったぞ。よかったな」
風見将吾:一番食べたかったブルーハワイがゆゆちゃんにかっさらわれたため、コーラ味を取ってます。
風見裕二:「ありがと、勲くん」
壱条ゆゆ:やたら大きな塊を掬い、一口でぱくーっといく。
露野 勲:「九段さんのおかげだね。全力で走って来たから、もう喉かわいたよ……」
九段 美優紀:「じゃ、私は抹茶ね」
壱条ゆゆ:「あはは、痛ったーい!」
壱条ゆゆ:こめかみを抑えてきんきんする感触を楽しんでいる。
九段 美優紀:「ささ、遠慮せずにたべな」
風見将吾:「九段先輩、まだお祭りを見て回るんですか?」
風見将吾:「俺たちも今来たところです。迷惑でなければ一緒にいかがでしょう」
九段 美優紀:「そうだねえ」
???:「何が遠慮せずにだ、バカ」
GM:ぬっと、背の高い男が顔を出す。
九段 美優紀:「げっ、ヒロ兄」
ヒロ兄:「それはウチの屋台のヤツだろ」
九段 美優紀:「いいじゃん、ヒロ兄のお父さんが持ってけってくれたんだもん」
GM:ヒロ兄と呼ばれた青年は大学生で。
GM:君達とは顔馴染みだ。
風見将吾:「すみませんヒロさん、もう口をつけてしまったんで……お詫びに屋台手伝いますよ」
GM:東京の大学に通っていて、夏休みで帰省中のようだ。
露野 勲:「ど、どうも……。て、手伝えることがあれば……」
壱条ゆゆ:「こんにちわー!」
壱条ゆゆ:「おいしいです!」
ヒロ兄:「ああ、構わねえよ」
ヒロ兄:「どうせ屋台は親父たちが好きにやってるからさ」
ヒロ兄:「それより、もうそろそろ人形供養が始まるぜ」
ヒロ兄:「祭りのメインイベントだ。行かないのか?」
露野 勲:「あ。もう、その時間なんだ」
風見将吾:「あれ、もう? 今年はちょっと早いんですね」
ヒロ兄:「今年は沢山集まったらしいからな。燃やすのに時間がかかるんだ」
ヒロ兄:「デカい、篝火になるからな。見物だぜ」
壱条ゆゆ:「ねーみゆきちゃんみゆきちゃん。いっつも思ってるんだけど、人形くよーってなんなの?」
九段 美優紀:「ほほう、良い質問だね」
九段 美優紀:「全国的に似たような風習は沢山あるんだけどね」
風見将吾:「"どんど焼き"とか"鬼火焼き"ですね。地方によって名前は色々みたいですけど」
九段 美優紀:「将吾~」
風見将吾:「あっ」
風見将吾:「はい! すみません!」
九段 美優紀:「ま、その通りでさ」
九段 美優紀:「古くなった人形には魂が宿るって言ってね」
九段 美優紀:「遊ばずに放っておいたり捨てたりすると可哀想でしょ」
九段 美優紀:「だから感謝を込めて供養、つまりお葬式をして」
九段 美優紀:「あの世へ送ってあげるのさ」
壱条ゆゆ:「じゃあ、お葬式なんだ」
露野 勲:「ぼくも、供養をお願いしたことあります。小学生の頃、ヒッターマンの人形……」
九段 美優紀:「ひっひっひ、でもね」
九段 美優紀:「それは建前でね」
九段 美優紀:「昔々、この街の人形供養は生贄の儀式だったらしいよぉ~」
GM:幽霊のようなポーズをとっておどける。
風見将吾:「先輩……それはただの、酔った老人たちがよく話すオモシロ都市伝説では……」
壱条ゆゆ:「ええーっ」
風見将吾:「図書館で調べましたけど、なかったですよ。生贄の記録なんて」
壱条ゆゆ:こちらも大げさに身を反らせる。
露野 勲:「こ、こ、怖がらせないでくださいよ……」
壱条ゆゆ:「今年のイケニエは勲だーっ」
壱条ゆゆ:ばーっと両手を大きく掲げる。
九段 美優紀:「実際、室町時代の十海何某は生贄を捧げてだね」
九段 美優紀:「豊作を呼び込んだらしいのさ」
露野 勲:「ひ、ひえぇ!!!」 将吾の後ろに隠れる
露野 勲:「壱条がやるとなんかシャレにならないハクリョクがあるよ!」
風見将吾:「勲! それでも男か、しゃんとしろ!」
ヒロ兄:「相変わらず、しょうもない事に詳しいな。地理歴史の成績は最高の女だけある」
露野 勲:「む、無理だって……! 相手は壱条もしくはオバケだよ」
九段 美優紀:「ヒロ兄は家庭科10の男でしょ」
壱条ゆゆ:「あはははは」
九段 美優紀:「知ってる?ヒロ兄の小学校の夢はケーキ屋さんなんだよ」
露野 勲:「えっ? そ、そうなんですか?」 驚愕!
風見将吾:「もしかして東京に行ったのもそのためですか」
ヒロ兄:「ぐ、親父には黙っててくれ」
GM:そうこうしていると祭囃子の音がより大きくなってくる。
風見将吾:「……そろそろ行ったほうがよくないか? 人形供養、はじまりそうだ」
露野 勲:「あ。そ、そうだね」
壱条ゆゆ:「…………」
壱条ゆゆ:顎に手を当てて考え込む。
風見将吾:「壱条、行くぞ。かき氷ももう食べただろ」
九段 美優紀:「そうだね、早くいかないと良い場所取れないし」
風見裕二:「ゆゆちゃん、どうしたの?」
壱条ゆゆ:「……人形くよー、いっぱい人集まるよね?」
露野 勲:「うん。たぶん……」
壱条ゆゆ:「お祭りの人、みーんな、そこに行くってことはさ……」
壱条ゆゆ:「普段いけないとこの大人もいないってことだよね?」
露野 勲:「うん。たぶ……ん??」
壱条ゆゆ:「知ってる? ここの裏の森、こわーい怪物が出るんだって」
風見将吾:「おい。何を考えてる」
壱条ゆゆ:「小学校さいごのお祭りなんだよ。人形供養はさ、毎年やってるじゃん」
露野 勲:「……? どういうこと? つまり……」
壱条ゆゆ:「すなわち。壱条ゆゆちゃんは、夏の夜恒例、肝試しを提案します!」
露野 勲:「森の方を探検しにいく……ってこと?」
風見将吾:「……夏休み前、学校で先生がおっしゃってたことを忘れたのか? 肝試しとかそういうことを子供だけでやるのはいけないと……」
露野 勲:「ええ~~……!?」
壱条ゆゆ:「神社の裏手から森に入って、ぐるーっと回って戻ってくるの」
露野 勲:「……こわい怪物が出るのに!?」
風見将吾:「九段先輩、このバカを止めてくれませんか」
風見将吾:「人形供養の方が絶対に大事だ。そうでしょう」
壱条ゆゆ:「もー、勲は怖がりなんだから! 出るわけないでしょ?」
壱条ゆゆ:「出るかもしれないけど」
九段 美優紀:「んー、小学校最後のお祭りってのは確かに一度しかないからね」
壱条ゆゆ:「将吾もさー、山の上からなら、人形供養の火、人ごみなしで眺められるじゃん? 一網打尽!」
露野 勲:「………」
壱条ゆゆ:一石二鳥、と言いたかったらしい。
ヒロ兄:「おい」
九段 美優紀:「まあまあ、小学生だけなら危険かもだけど」
九段 美優紀:「私もついてくなら大丈夫じゃない?」
壱条ゆゆ:「みゆきちゃーん!」
風見将吾:「先輩……はあ……」
風見将吾:「仕方がない、俺も行こう。さすがに女性だけを森に入れるわけにはいかない」
壱条ゆゆ:「将吾だってパンチがあるでしょ?」
壱条ゆゆ:「怪物がでたらどかんと一発かませるじゃん」
露野 勲:「……みんなが行くなら」
風見将吾:「そもそも怪物なんていない。おばけもいない。いつまで子供みたいなことを言っているんだ、もう」
露野 勲:「ぼくも、ついていくよ」 一人で人形供養を見に行っても、つまらない。このときはそう思った気がする。
風見裕二:「ヤダ!僕はいかない!」
風見裕二:「なんでわざわざ怖いとこにいくの」
風見裕二:「お祭りがいい」
風見将吾:「そうだな。男のくせに怖がりなのはよくないが、今回ばかりはお前が正しい」
風見将吾:「裕二は大人たちと人形供養を見ていろ。終わったらまた、ここで合流だ。いいな」
壱条ゆゆ:「裕二くんがあたしたちくらいの歳になったら、また誘ってあげるね!」
ヒロ兄:「はぁ…」
ヒロ兄:「俺もついていってやりたい所だが」
ヒロ兄:「店が忙しくなる時間だ。今後の事を考えて親父には」
ヒロ兄:「良い顔しなきゃいけねえ」
露野 勲:「だ、だ、大丈夫です。将吾も、壱条もいるし……」
露野 勲:「九段さんは、みんなで守ります!」
ヒロ兄:「裕二、兄ちゃんと来るか?りんご飴をご馳走するぜ」
風見裕二:「…うん」
壱条ゆゆ:「ヒロさん、このこと内緒だからね、内緒!」
壱条ゆゆ:しーっと指を口に当てて。
九段 美優紀:「ヒロ兄、話が解るんだから」
風見将吾:「ヒロさんすみません。ちょっとだけそいつをお願いします」
ヒロ兄:「解ってるよ、第一バレたら一番俺が怒られるだろ」
ヒロ兄:「何かあったらすぐ連絡しろ」
ヒロ兄:「化けモンは眉唾だが、最近不審者がでてるってのは事実だからな」
GM:学校などで飼育されている動物が殺される事件が最近あった事を君達は思い出す。
露野 勲:「そ、……そうします……」
九段 美優紀:「あ、そうだ」
壱条ゆゆ:「そうなの?」
九段 美優紀:ポケットから何かを取り出しヒロ兄に投げる。
ヒロ兄:「うお?何だ」
GM:白くて丸い糸が巻かれたような球体に飾りひもが付いている。
九段 美優紀:「それ、さっき道で屋台のお婆ちゃんがくれたの」
九段 美優紀:「お守りだってさ」
九段 美優紀:「皆の分もあるよ」
GM:といって皆に配る。
九段 美優紀:「これでオバケもでないでしょ、厄除け厄除け」
露野 勲:「……見たことないお守りだなあ」
壱条ゆゆ:「かわいいー! 毬かな?」
風見将吾:「ありがとうございます。……手作り?」
風見将吾:「屋台でくれるお守りっていうのもそうそう聞かないような。まあ、いいか」
ヒロ兄:「良く知らねえ人から物を貰うなよ」
ヒロ兄:「まあ、いい。遅くなるなよ」
ヒロ兄:「行くぞ、裕二」
風見裕二:「うん」
風見裕二:「兄ちゃん、早く戻って来てね」
風見将吾:「俺たちも行くなら行こう。上から見る人形供養は確かに興味がある」
風見将吾:「すぐに戻る。ヒロさんに迷惑をかけるなよ、裕二」
壱条ゆゆ:「写真とってくるからね~」
露野 勲:「うん。……じゃ、じゃあ……行こうか」
壱条ゆゆ:「あ、カメラなかった。まあいいや、しゅっぱーつ!」
九段 美優紀:「はいはい」
GM:大鳥居の少し手前に森に繋がる横道がある。
GM:祭りの為だろうか、道沿いの灯篭に蝋燭が立てられ。
GM:仄かに道を照らす。
露野 勲:「……暗いね」
壱条ゆゆ:「暗いねー」
九段 美優紀:「まあ、蝋燭だけだじゃねえ」
九段 美優紀:スマホのライトをつける。
GM:少しだけ道が照らされる。
壱条ゆゆ:「あっ、最新のやつ!」
九段 美優紀:「いいでしょ、バイトして買ったんだ」
壱条ゆゆ:「すごいすごーい」
風見将吾:「スマートフォン、高かったでしょう。そうとうバイトしたんですね」
風見将吾:「俺は家の電話があればそれで十分だと思いますけど……」
九段 美優紀:「半分は親に出してもらったけどなー」
露野 勲:「アルバイト……ぼくもはやくできるようになりたいな」
壱条ゆゆ:「いいなー、あたしもそういうの――うひゃわっ!」
壱条ゆゆ:びくっ、と両脚を跳ねさせる。
露野 勲:「な、なに!?」
露野 勲:「なんか出たっ!?」
壱条ゆゆ:「なっ、なんか足に冷たいのっ……」
壱条ゆゆ:足元で、露に濡れた芒が揺れている。「…………」
風見将吾:「……怖いなら帰るか?」
露野 勲:「……ススキじゃん……」
九段 美優紀:「この辺は草むしりもしてないよね」
九段 美優紀:「確か、先には小さいお堂があった筈なんだけど」
壱条ゆゆ:「だだだだだれが怖いなんて言ったかなぁーっ」 蝋燭に照らされる首筋に汗が滲んでいる。
九段 美優紀:「本社とちがってお参りに行く人も少ないだろうし」
壱条ゆゆ:全体的にノリで動く割に……あと一歩のところで気が引ける!
壱条ゆゆ:そういう小心なところがある。普段から。
露野 勲:「壱条、そーゆーところあるからね……。お堂って、そんなのありましたっけ」
風見将吾:「明治だとか江戸だとか、その頃まではこっちにも参道が整備されていた……らしいぞ」
露野 勲:「そうなの? 将吾すごいね。ぼく、自由研究でこの街の地図作る班だったんですけど、わからないなあ……」
九段 美優紀:「ちょっと奥まった所にあるからね、詳しい人か一度行った事ないと知らないんじゃないかなあ」
九段 美優紀:「将吾は詳しいタイプだね」
壱条ゆゆ:「なんか余裕ありげな勲はらたつ!」
露野 勲:「り、理不尽ないかり……!」
風見将吾:「自由研究で郷土資料館にいったんで。たまたまです」
九段 美優紀:「ちなみに私は行ってみた事あるほうね」
風見将吾:「お堂って実際、管理人とかいるんですか? 取り壊しになってないってことは、未だに何か祀られてるとか?」
九段 美優紀:「一応、宮司さんが管理してるよ。普段は立ち入り禁止」
九段 美優紀:「見回りで見つかると滅茶苦茶怒られる」
九段 美優紀:「つまり夏祭りの夜が狙い目って事だね」
壱条ゆゆ:「ええええ」
九段 美優紀:「考える事は同じって事さ」
露野 勲:「あ。よかっ……いや、よくはない……ですけど……!」
風見将吾:「……サッと行ってサッと帰ろう。万が一うちのお祖父様に知られたらヤバすぎる……」
九段 美優紀:「ほら、もうすぐだよ」
GM:前方の方で僅かに明かりが灯っているのが見える。
壱条ゆゆ:「あそこが目的地だね!」 と言いながら将吾くんの後ろに隠れている!
露野 勲:「えーと……あれがお堂?」
九段 美優紀:「あれ?お堂に明かりなんてついてたかな。夏祭りだから特別かな」
露野 勲:「え、じゃ、じゃあ……やっぱり誰か残ってるかもしれないですよ……!」
風見将吾:「壱条……やっぱり怖いんじゃないか」
壱条ゆゆ:「怖くないやい! べらんめえ!」
露野 勲:「なんで急に江戸っ子に……」
九段 美優紀:「まあ、ちょっと覗いて帰ろうか。誰も居なければ上から人形供養も見れるしね」
壱条ゆゆ:「てゆーか、おんぼろじゃん。びっくりさせやがってー」 と言いながら堂に近づく。
露野 勲:「あ、あの、誰もいませんか~……?」
風見将吾:「しかし誰がいるんだろうな。宮司さんはこっちにはこないだろうし……」
GM:一番前を歩いていた君は足を滑らせる。
GM:ぬるりとした感触。
壱条ゆゆ:「わっととっ」
壱条ゆゆ:べしゃ、と尻もちをつく。 「……もーっ! ぬるっとした! またススキかー!?」
GM:手がべっとりと濡れる。
GM:その色は赤い。
九段 美優紀:「え、ゆゆちゃん。大丈夫?」
九段 美優紀:ライトで足元を照らす。
GM:薄暗くて気付かなかった。
壱条ゆゆ:「うん。ごめんねー、ここやだー」 手を振ろうとして
壱条ゆゆ:真っ赤な、手に。
露野 勲:「……壱条?」
風見将吾:「……おい!?」
壱条ゆゆ:「………・…え」
GM:お堂から流れ出る赤い液体が石畳を濡らしている。
露野 勲:「な、なに、その……それ……!」 胸の辺りを押さえる。
風見将吾:「ちょっと待て」
九段 美優紀:慌てて走って皆の前に出る。
壱条ゆゆ:「え……え」
風見将吾:「なんだこれ……お堂からだぞ!」
壱条ゆゆ:事態が理解できていない。「なに、これ」
露野 勲:「将吾! ち、近づかない方が……!」
???:「声?人か?」
GM:ギィイとお堂の扉が開き。
GM:学生服を着た少年が現れる。
GM:お堂の中を覗く気持ちがあるならば解る。
風見将吾:「……どうも。すみません、邪魔をしたようで」 ちらりとお堂に目を向ける。
GM:いくつもの動物の死骸が転がっている事に。
風見将吾:「すぐ帰りますので。お構いなく」
壱条ゆゆ:尻餅をついている。見上げて、扉の隙間からその有様が。 「……ひ、や」
???:「困ったな。今日は誰も来ないと」
GM:ゆっくりと歩いてくる。
???:「思ったのに」
壱条ゆゆ:「だれ。やだ、なに……っ」 後ずさろうとする。べちゃりと、流れる血が更に浴衣に塗りたくられる。
???:「同じような事を考える人間も居るかあ」
露野 勲:「……い、い、壱条」 震えながら、前に出ようとする。その足が動かない。
露野 勲:「こ、こっちに下がって。将吾が、将吾の後ろに」
九段 美優紀:「邪魔したのならごめん」
九段 美優紀:子供たちを後ろに下がらせるように
???:「いいよ、別に」
???:「そろそろ、次の段階にすすもうと思ってたんだ」
風見将吾:ゆゆちゃんを助け起こしながら、既に逃げる態勢に入ってます。武術家であっても、逃げられるなら逃げるに越したことはないと教えを受けている。
壱条ゆゆ:「ひうっ、将吾ぉ……!」
GM:右手には血で染まったナイフが握られている。
風見将吾:「九段先輩、帰りますよ。これは……あまり付き合わない方がいい」
露野 勲:「……九段さん!」
壱条ゆゆ:涙が滲んでいる。
壱条ゆゆ:かたかた震えながら、自分より背の低い少年に縋りつくように。
風見将吾:「九段先輩! 早く戻りましょう!」
露野 勲:「ゆ、ゆっくり、こっち……こっちに、こっち、こっちです。な、なんか、この……人……」
九段 美優紀:「私達は帰ります」
???:「帰れると思ってるの?」
GM:鋭い前蹴りが美優紀を襲う。
九段 美優紀:「がっ!?」
GM:鳩尾を蹴られ屈みこむ。
壱条ゆゆ:「みゆきちゃん!」
露野 勲:「くっ、く、九段さん!」
???:「知ってる?人形供養って昔は生贄の儀式だったって話」
???:「あれ、本当の話なんだよ」
壱条ゆゆ:大好きな美優紀が倒れる姿に、ぱっと怒りが沸く。怪物じゃない、ただの人間の、暴力。
露野 勲:「九段さん、を、……た、助けなきゃ……助けないと……」 現実感がない。足元がおぼつかない。もしかしたら何かの嘘なのかもしれないと、都合のいいことを考えた。
壱条ゆゆ:「こ、のおっ!」 足元の、血混じりの土砂を握って、投げつける。
???:「おっと」
GM:手で土砂を払いのける。
???:「ここの神様はね、捧げものをすれば応えてくれるのさ」
???:「おかげで病気がちだったからだもこんなに健康だし」
壱条ゆゆ:「みゆきちゃんから離れろ! ばかっ、ばかあ!」
???:「最近、不思議と運が良い」
GM:ゆゆの腕を掴む。
露野 勲:「しょ、将吾…………」
風見将吾:「おい……! いい加減にしろ!」 殴りかかります。ナイフにもひるむことはない。
風見将吾:「男が女性に手を出すな! 恥を知れ!」
壱条ゆゆ:「やっ……!」
GM:その拳を受け流し足払いで転ばせる。
???:「お、何か武術でもやってる感じの動きだね」
壱条ゆゆ:「将吾ぉ!」 わめきながら、腕をひっかこうとする。
???:「以前の僕ならひとたまりもなかった」
風見将吾:「ぐっ……! 勲、行け! 大人を呼んでくるんだ!」
???:「ん、何だこれ」
露野 勲:「……で、でも」 足が動かない。 「それじゃあ、……将吾は……」
GM:ゆゆちゃんの持っていたお守りを奪い取る。
壱条ゆゆ:「! あ……!」
???:「へえ、これ。似てるな」
???:「マユラ様に」
???:「そうそう、話の続きだけど」
???:「昔は人形の代わりに人間を生贄にしてたんだ」
???:「だから、逃がすわけないよね。ちょうど良い」
???:「動物だけじゃ、ダメなんだきっと」
壱条ゆゆ:「うう、ううーっ……!」
露野 勲:「そ、そっ、そんな……そんなこと」
???:「神様に捧げる供物になるんだ名誉な事だぞ」
露野 勲:「そんなこと、していいと思ってるんですか!・」
露野 勲:「こ、ここは日本ですよ! 人なんて殺したら……警察が……」
???:「していいに決まってるじゃないか」
???:「昔の人間はそうやってきたんだから」
???:「僕だってやる権利がある」
GM:ナイフを振りかぶる
???:「ははッ」
九段 美優紀:「やめろおおおおッ!」
壱条ゆゆ:「いやああーーっ!!!」
露野 勲:「ひ……」
GM:美優紀が少年に体当たりをする。
GM:その勢いで壱条さんは弾き飛ばされる。
???:「うわッ」
壱条ゆゆ:「ああっ!」
壱条ゆゆ:「みゆきちゃん!」
九段 美優紀:「あッ!」
???:「痛て…」
GM:少女の背中にナイフが突き立っている。
GM:傷口から血が流れ出るのが見える。
露野 勲:「……九段さん……?」
???:「順番が変わっただけさ」
壱条ゆゆ:「あ…………」
風見将吾:「お前……!」
GM:流れ出た血が石畳に染み込んでいく。
九段 美優紀:「大丈夫、私は…大丈夫だから」
壱条ゆゆ:「……い、いやああああああっ!」
壱条ゆゆ:「みゆきちゃん! みゆきおねえちゃんっ!」
露野 勲:「だ、大丈夫なわけ……」
露野 勲:「九段さんが、背中、血が……」
???:「煩いな」
GM:その時。
???:「ニエ…」
GM:深い澱んだ声が響き渡る。
風見将吾:「え?」
???:「ニエ…ニエ…」
GM:暗がりの中に人の形をした何かが立っている。
風見将吾:「なんだ……あれ」
GM:声を発しているのはそれだと解る。
???:「贄」
風見将吾:「人じゃ……ないぞ……」
???:「贄は捧げられた」
露野 勲:(……これは、だめだ)
露野 勲:(どうしようもない。そんな確信がある)
GM:空間に黒い裂け目が走る。
壱条ゆゆ:「は、はあっ、は、は……!」
???:「贄…願え」
壱条ゆゆ:お姉ちゃんを助けなきゃ。駆け寄って。手当を。
壱条ゆゆ:目が、逸らせない。息が、出来ない。
GM:美優紀が暗い裂け目に飲み込まれていく。
九段 美優紀:「…あんたが」
九段 美優紀:「神様だって言うなら」
九段 美優紀:「あの子達を助けなさい!」
露野 勲:(こんなのはおかしい)
???:「なッ!?」
壱条ゆゆ:「もうやだあ……」
???:「贄…解った」
露野 勲:(許せない。なんで、九段さんが……こんな目に遭っているんだろう)
???:「待て!捧げたのは僕だぞ!」
露野 勲:(なんでこんなことが起きることになっていたんだろう?)
???:「願いを言え」
???:「願いを!言え!」
GM:露野君と風見君の持つお守りが赤く染まる。
GM:君達の頭の中に声が響く。
???:「言え!」
風見将吾:「そいつを……」 ゆらりと立ち上がる。
風見将吾:「九段先輩を傷つけた、そいつだけは許せない」
風見将吾:「そいつを殺してくれ。……それが無理なら」
風見将吾:「俺にそいつを殺す力をよこせ!」
露野 勲:「九段さんを、助ける力を」
露野 勲:「ぼくに、九段さんを助けられるくらいの、力を!」
???:「迷い子の力を与える」
???:「ははは!僕の望みも力だ!よこせ!」
露野 勲:(たったいま動かなかった……ぼくの足を、動くように)
GM:少年が奪ったお守りも赤く染まる。
???:「叶える」
???:「贄!贄!」
壱条ゆゆ:「ひっ」
露野 勲:(九段さんよりも早く、前に出られる足。傷ついても大丈夫な、頑丈な体……)
露野 勲:(それがあれば……)
壱条ゆゆ:怯えきっている。耳を塞いで、蹲っている。
九段 美優紀:「ごめんね、やっぱり」
九段 美優紀:「危ない事はしちゃダメだったね」
露野 勲:(勇気はぼく自身でなんとかする)
GM:そう言い残して暗がりの裂け目に少女は消える。
壱条ゆゆ:「ぁ…………」
???:「贄の願い」
???:「叶えよう」
壱条ゆゆ:手を伸ばす。届くはずもない。
GM:君達の意識は暗転する。
GM:気付くと君達は大鳥居の前に立っていた。
風見将吾:「……あ」 周囲を見回す。
風見将吾:「九段先輩?」
風見将吾:「九段先輩! どこです!」
露野 勲:「……将吾」
露野 勲:「この大きな鳥居……」
露野 勲:「なんだろう?」
露野 勲:現実かどうかわからないまま、ぼんやりと鳥居を眺めている。
壱条ゆゆ:「…………え、……」
壱条ゆゆ:血と、泥塗れの浴衣。
露野 勲:「何があったんだろう」
風見将吾:「わからない。でも……」 壱条の浴衣を見る。 「……夢じゃなかったらしい」
風見将吾:「くそ。夢の方がよかった……なんなんだよ一体……」
露野 勲:「……。ぼくも」
露野 勲:「夢だったらよかった」
警官:「君達、いったいどうしたんだ」
警官:「怪我をしてるのかい?」
GM:血の付いた浴衣をみて巡回中の警官が話しかけてくる。
壱条ゆゆ:「あ、ぁあ、ぁああ…………」
壱条ゆゆ:ふらつき、頭を抱えて、鳥居の柱に縋りつくように膝をついた。
壱条ゆゆ:「……っ……」 どさり、と気絶する。
露野 勲:「……九段さんを」
警官:「本部応答願います、救急で…はい」
露野 勲:「九段さんを、助けてください!」
露野 勲:「ま、まだ、まだ間に合うかもしれない! そうすれば……今日あったことなんて」
露野 勲:「ぜんぶ」
警官:「九段?他にも誰か怪我をしているのかい?」
露野 勲:「ぜんぶ嘘にできるかもしれないんです……」 その場に膝をつく。
GM:「解った、任せてくれ」
警官:「解った、任せてくれ」
警官:「すいません、誰か救急を応援が来るまでこの子達をお願いします」
GM:周囲の大人たちが君達の所へ来てくれる。
風見将吾:警官の方をろくに見向きもせず、じっと森の方だけを見据えている。
警官:「それで僕はどこに行けばいい?教えてくれないか?」
露野 勲:「森の、お堂を」
露野 勲:「案内します。いますぐに……!」
警官:「君は怪我はしてないんだね」
警官:「解った、案内してくれ」
GM:人が集まりザワザワと騒がしくなっていく。
風見将吾:「……勲、壱条」
露野 勲:「……うん」
風見将吾:「大丈夫だ。警察がきっと……解決してくれる。九段先輩だってすぐに見つかる」
風見将吾:「もう少しだけ頑張ろう。もう少しさ。すぐ解決する……きっと……」
壱条ゆゆ:その言葉が、聞こえていたかどうか。「……お、ねえ、ちゃ…………」
壱条ゆゆ:目を閉じ、何度も名前だけを繰り返す。
露野 勲:「将吾」
露野 勲:「……」
露野 勲:「妙な感じがしない?」
風見将吾:「お前もか」
露野 勲:「……気のせいだと、いいんだけど」
露野 勲:「気のせいになんか、できそうにない」
露野 勲:吐き捨てるように言って、そのまま歩き出す。
風見将吾:「"迷い子の力を与える"。……これは、チャンスだ」
風見将吾:「もし警察が解決できなかったとしたら……」
風見将吾:「俺たちで解決するしかない」 勲の後を追う。
GM:お堂には、何もなかった。
GM:九段美優紀も。
GM:血の跡も。
GM:動物の死骸も。
GM:ナイフを持った少年も。
GM:異形の存在も。
GM:
GM:色々な人に質問されそれに答えた。
GM:ヒロ兄が悲しそうな顔をしていたのを君達は覚えている。
GM:事件は少女の行方不明として処理された。
GM:神隠し、そういう噂も流れた。
GM:
GM:もう、13年も前の話だ。
GM:むかし、腹を空かせた旅人に若者が飯を振る舞った。
GM:旅人は大層喜び、若者に宝を授けたという。
GM:
GM:その地には神が棲むという。
GM:
GM:K府十海市。
GM:日本海に面するその街に。
GM:再び何かが起ころうとしている。
GM:『十海怪奇譚」第零話 13年前『夏の話」
■『十海怪奇譚』第零話 sideA 四年前『冬の話』
GM:それは無数の檻が立ち並ぶ動物園のようであり。
GM:それは無数の絵画彫刻が飾られた美術館のようであり。
GM:それは無数の骨董品が納められた匣のようであり。
GM:それは無数の人形が暮らすドールハウスのようであり。
GM:それは無数の宝石が溢れる宝箱のようであり。
GM:それは無数の死体が眠る死体置き場のようでもある。
GM:
GM:荒野の只中に聳え立つ奇妙な建物。
GM:蒐集狂いの集まる場所の名を。
GM:『博物館』と人は呼んだ。
GM:
GM:一人の少女がそこから抜け出すのは。
GM:雪が降り始めた、ある冬の日だった。
GM:
GM:第零話 sideA 四年前『冬の話』
GM:白い無機質な部屋の中央に少女は立っている。
GM:少女の周囲には異形の獣が数匹、唸り声をあげながら少女を睨んでいた。
GM:天井に設置されたスピーカーから声が聞こえる。
人体卿:「訓練内容はいつも通りだ67番」
人体卿:「君は自分の全能を持ってそいつらを殺せばいい」
人体卿:「できるね?」
検体番号67:「………」粗末な服を着た、ぼさぼさの髪の少女。
検体番号67:「…できないっつっても」
検体番号67:「聞かないでしょ。どうせ」
人体卿:「できなければ仕方がない、それだけの事だ」
検体番号67:「あたしがあいつらに殺されるってこと」
人体卿:「殺されたのなら、それはそれで」
人体卿:「原因を調査し、次により優れた結果を出せばいい」
人体卿:「君の死は無駄にはならない」
怪物:「グルルル…」
検体番号67:「なんだよそれ……」濁った眼で、怪物を見る。
検体番号67:「もういい、分かった。やる」
人体卿:「では始めようか」
GM:遠隔操作で首輪に付けられていた何らかの液体が怪物に注入される。
怪物:「ガアッ!」
GM:怪物たちは少女に飛びかかってくる。
GM:よだれを撒き散らし攻撃衝動のままの突進だ。
検体番号67:手のひらに流れる冷や汗を誤魔化すように手を握りしめる。
検体番号67:「───あいつらを」息を吸い、小さく呟いた。『やっつけて』
検体番号67:直後、襲い来る怪物たちは何か透明な壁に衝突したように弾かれ、
怪物:「ギッ?」
検体番号67:たたらを踏んだところを、更に不可視の斬撃に追撃される。
検体番号67:少女は立ち尽くしたままだ。まるで、透明な『何か』が彼女の代わりに蠢いているような。
怪物:「ギャワーッ…」
検体番号67:「……うるさい…」何かをにらみつけて呟く。
GM:怪物は動かなくなる。
人体卿:「なるほど」
人体卿:「いいだろう、上がってくるといい」
検体番号67:「うるさい、うるさいな…勝てたのはあたしが……」ブツブツ呟いている。
検体番号67:「………」「……はい」
検体番号67:頭を振って、怪物の血が流れる部屋を出る。
GM:ベットの上で採血をされ。
GM:脳波や心電図などのバイタルデータを計測される。
人体卿:「戦闘能力は十分だな、戦闘員としてなら欲しがるセルもいるだろう」
GM:白衣とスーツを合わせたような奇妙な服装。
GM:白いシルクハットを被った白い肌の男。
検体番号67:その男と、自分が検査されている様を茫洋と見ている。
GM:その服には人体パーツを模したオブジェクトや点滴キットなどが装飾されている。
GM:人体卿(ヒューマンコレクター)。
GM:それが君の飼い主の名だ。
検体番号67:「あんた、あたしを売るつもりなの」
人体卿:「売る?」
人体卿:「面白い事を言うものだ」
人体卿:「売りものならもっと丁寧に扱う」
検体番号67:「…最低」
人体卿:「そう思うなら、もっと結果を出してほしいものだ」
人体卿:「随分と強く健康だが」
人体卿:「むしろ異常が出たほうがアプローチのしがいというものがある」
検体番号67:「異常って…」
検体番号67:「あたしは言われたとおり訓練もしてるじゃない」
人体卿:「いつも通り、普通の結果が出ているだけでは困る」
人体卿:「お前はそれなりに特別な個体なんだ」
人体卿:「普段とは違う反応、もしくは心身の以上など」
人体卿:「そう言った問題が出たほうが研究はやりやすい」
検体番号67:「………」そう言われても、自分の思いつく範囲で出来ることはやってる。泣きそうになる。
検体番号67:「あたしがおかしくなれば、あんたは喜ぶの」
検体番号67:「特別な個体って、それ、よく言うけど……」
検体番号67:「あたしのどこが特別なの。教えてよ。そうしたら」
人体卿:「それを教えて、楽をするために嘘をつかれると困る」
人体卿:「助かりたい、楽をしたい、結果を出したい」
人体卿:「そういう簡単な理由で人は直ぐに求められる結果を偽装する」
人体卿:「だから教えるわけにはいかない。理解できたかな?」
検体番号67:「…………」ギリギリと歯をくいしばる。
GM:コンコン、部屋の扉をノックする音。
検体番号67:目の前の男は、いつもこちらの思考を見透かしたような言動で、あたしの言葉を封じる。
人体卿:「入り給え」
GM:扉が開き、ガスマスクをつけた大柄の男が部屋に入ってくる。
ガスマスクの男:「失礼」
ガスマスクの男:「取り込み中でしたかな?」
検体番号67:「……」不安げな視線で、新たに入ってきた男を見上げる。
人体卿:「構わないさ、コミュニケーションをとっていただけだ」
GM:君は男を何度か見かけたことがある。
GM:人体卿の子飼いの蒐集部隊「マンハント」。
GM:そのリーダー格の男だ。
GM:名前はヴァーラ。
ヴァーラ:「納品に来ました」
ヴァーラ:「成人女性の眼球を20セット。人種はばらしてあります」
ヴァーラ:「ご要望の臓器は比較的健康なものが10セット」
ヴァーラ:「やや、問題がある分はどうしますか?」
人体卿:「要らない、好きにしていい」
検体番号67:「……」ここにいるとこういう会話ばかり聞く。頭がおかしくなりそうだ…本当におかしくなればいいのに。
ヴァーラ:「では、そのように」
検体番号67:「好きにって…」思わず声に出る。
ヴァーラ:「おっと、別に」
ヴァーラ:「食べたりするわけではありませんよ」
検体番号67:「……どうだか」
ヴァーラ:「私はそういう性癖は持ち合わせては居ませんので」
ヴァーラ:「ちゃんと販売します。売り先は色々ありますので」
検体番号67:「変態ばっかかよ…」
ヴァーラ:「販売先がどのように利用されるかは流石に」
ヴァーラ:「私、これでもちゃんと感謝をしています」
ヴァーラ:「信心深い方でして」
ヴァーラ:「日々の糧には常に感謝を」
人体卿:「そんな事はどうでも良い」
人体卿:「処理は?」
ヴァーラ:「完全に」
人体卿:「67番、お前は栄養補給でもしてくるといい」
検体番号67:「………」返す言葉も見つからず、絶句していた。「……いいの? 分かった」
人体卿:「食堂では栄養食Cを摂取する事」
検体番号67:「…ちっ」
人体卿:「あとは好きにしろ」
人体卿:「体を休めるのも仕事だ」
検体番号67:「…はぁい」
GM:数人のガスマスクの男が荷物を運び入れていく。
検体番号67:検査用のベッドから立ち上がる。
人体卿:「それは保存庫へ。眼球は検品する」
検体番号67:荷物の中身がどうやって入手されたか───想像して、嫌な気分になった。
GM:食堂は広く明るい。
GM:様々な装飾が施されたクラシカルなデザインの机が広間にいくつも並んでいる。
GM:注文をするまでもなく君の目の前に食事が運ばれてくる。
GM:パンとスープ。
GM:は理解できるが、あとは茶色と緑の固形食がいくつか皿の上に置かれている。
検体番号67:「………」そういうメニューばかりだから、食事ではなく『栄養補給』なのだ。
検体番号67:隅の席でぶらぶらと足を揺らし、もそもそと食事を口に運ぶ。
検体番号67:「何、…ポテチ? 知らない…」時々、独り言らしき呟きが漏れる。
???:「ああ…」
???:「失礼、相席させてもらっても構わないかな?」
検体番号67:「…うえっ」驚いて見上げる。
検体番号67:「え?あたし?」
???:「他に誰かいるかな?」
検体番号67:「……」前後左右、誰もいない。
検体番号67:「はぁ。どうぞ…」
GM:眼鏡をかけた碧眼の男性がにこやかに君に話しかける。
???:「いや、私は寂しがりやでね」
???:「食事は一人でするものじゃない」
検体番号67:「はあ……」(誰だこの人…見たことない……人体卿の仲間?…)
少年:「あー!マスター!なんで勝手に行っちゃうんですか!」
少年:「俺と昼ごはん食べるって言ってたじゃないですか」
検体番号67:(……またなんか増えた!)
???:「ああ、すまないピーター。君があまりにも遅いから」
???:「お腹が空いてしまってね」
???:「一人で食べるのも寂しいし、彼女と同席させてもらおうかと」
GM:巨大なウサギのぬいぐるみを引きずった少年が君の向かい側の席に着く。
ピーター:「え?誰ですかコイツ」
???:「彼女は人体卿のチルドレンだよ。君とは同格にあたる、コイツ呼ばわりは失礼だ」
検体番号67:(同格)警戒した目で男と少年を交互に見やる。
???:「おっと名乗らない僕も失礼だったか」
???:「すまない、どうもお腹が減ると慌ててしまう」
GM:男は指を軽く振る。
少女?:「…」
GM:それを合図に同じ顔の少女が何人も料理を運んでくる。
GM:テーブルの上は色々な料理で満たされていく。
検体番号67:「い、いえいえ」精一杯の愛想笑いを浮かべる。「……?」
???:「申し遅れましたレディ」
???:「僕は人形卿」
???:「ドールコレクターと人は呼ぶ」
検体番号67:「……!」
???:「彼女たちは僕のコレクションさ」
人形卿:「下がっていいよ」
少女人形:「…」
GM:人形たちは一礼して壁際に下がる
検体番号67:「人形卿…人体卿の仲間じゃん、やっぱ…」
検体番号67:「(さっき断らなくて良かった)」冷や汗が流れっぱなしだ。
人形卿:「仲間…か。まあそうなるね」
人形卿:「おっとピーター、君も自己紹介しなさい」
GM:待っていたように立ち上がり胸を張って応える
ピーター:「僕はピーター・ロイド。偉大なる人形卿の一番弟子だ」
検体番号67:「一番弟子?」その様子を呆けた顔で見る。
ピーター:「?お前は人体卿の弟子じゃないのか?」
人形卿:「ふむ、彼は少し特殊だからね」
検体番号67:「あたし、実験動物と同じ扱いされてる」
検体番号67:「弟子だなんて…なりたくもないし…」
人形卿:「蒐集家というものは」
人形卿:「少なからず孤高なものだ」
人形卿:「人体卿はそのなかでもとびきり孤高な男だからね」
ピーター:「へー」
検体番号67:「ただ変態なだけだよ、あいつ…」
人形卿:「変態か」といって苦笑する。
人形卿:「まあ、僕も言われた事はある」
人形卿:「男のくせに人形を集めるんなんて、ってね」
検体番号67:「え、そこ?」
検体番号67:「まあ確かに、さっきの光景はヤバって思ったけど」
検体番号67:「人体卿よりはマシ、マシ。ぜんぜんマシ」
人形卿:「そう言ってもらえると嬉しいね」
ピーター:「マシとはなんだ!マスターは最高なんだぞ」
人形卿:「さあ、そんな事より食事にしよう」
人形卿:「君も好きな物を食べなさい」
検体番号67:「え、食べていいの?」
人形卿:「さっき魔獣卿に聞いたんだが」
人形卿:「人体卿は今日明日は実験にかかりきりだそうだ」
人形卿:「彼の性格ならその間は君に干渉しないだろうし」
人形卿:「忙しい時に面倒な事をしたがらないから」
人形卿:「多少の贅沢にも目をつぶるだろう」
検体番号67:「……!」目を輝かせる。
ピーター:「マスターに感謝しろよ」
検体番号67:「ありがとうございます!すごくありがとうございます!」
検体番号67:言いながら、勝手にフルコースに手を付け始める。
検体番号67:「(人体卿の実験って…さっき届いてた荷物のやつだよね)」
ピーター:「あ、そのサーモンの燻製は僕が!」
検体番号67:「(かわいそうだけど…ラッキー!)」
検体番号67:「知らない、早いもん勝ちってやつよ」
検体番号67:「んんん…すごい、柔らかかったり固かったり、いろんな味がする」
ピーター:「はッ。貧相な感想だな」
ピーター:「この芳醇な香りと溶けるような脂の甘さを表現する語彙を持たないとはね」
検体番号67:「へー、すごいすごい」マッシュポテトを取り分けながら聞き流す。
人形卿:「美味しければそれでいいと思うよ、僕は」
ピーター:「ですよね、マスター」
人形卿:「そうだ、よければ明日も一緒に食事はどうかな」
検体番号67:「コロッと声色変えるな…」
検体番号67:「…え、い、良いんですか!」
人形卿:「食事は賑やかな方がいい」
検体番号67:「うわ!ぜひ!」
検体番号67:「あ、あたしみたいなやつですけど…ぜひ…」
検体番号67:「あたしも…あなたと話すのは、すごく」
検体番号67:「人間っぽい気持ちになれて、楽しいので!」
GM:少し悲しそうな目をする
人形卿:「君は人間だよ」
人形卿:「それを、見失ってはいけない」
検体番号67:「……」「…そう、ですね」
人形卿:「…君は、何か夢があるかい?」
人形卿:「望んでいる事でも良い」
検体番号67:「……」瞬き。
検体番号67:少し逡巡して、しかし言葉にする。
検体番号67:「そりゃ、外に出て」
検体番号67:「自分のやりたいこと、やることです」
人形卿:「そうか」
人形卿:「今は辛いかもしれないが」
人形卿:「その意思を持つことが大事だ」
検体番号67:「……そんなこと言っていいの」
人形卿:「意思を失い、流されれば良い結果は生まれない」
検体番号67:「人体卿の仲間なのに…」
人形卿:「言っていい?それは君がかな?それとも僕がかな?」
人形卿:「ああ、僕がか」
検体番号67:「あたしも、だとは思うけどね」
人形卿:「僕達はコレクターズセルという組織を成している」
人形卿:「ただそれはそれぞれの蒐集の趣味をお互いに助ける為という意味が強い」
人形卿:「それぞれの趣味や主義にはあまり干渉しないのさ」
検体番号67:「………」探るような眼で目の前の男を見ている。
人形卿:「だから僕が何を言っても構わない。まあ、人体卿は良い顔はしないだろうから」
人形卿:「大きな声では言えないけれど」
人形卿:「そして君は、だが」
人形卿:「言わなくてもいい、ただその意思は棄てない方が良い」
検体番号67:「…………うん」
人形卿:「これは大人としてのアドバイスだ」
検体番号67:「…あたしだって、こんなこと言うひとは選ぶよ」
検体番号67:ホッとしたように小さく笑う。
検体番号67:「でも、ありがと。分かった」
ピーター:流石マスターは良い事言うな!という顔をしている。
ピーター:「さあ、食事を続けよう」
人形卿:「さあ、食事を続けよう」
人形卿:「まだ沢山あるからね」
検体番号67:「はい!全部食べるよ、あたし!」
ピーター:「少しは遠慮しろよ」
GM:楽しい時間はこうして過ぎていった。
GM:翌日も人形卿たちと会食し、人体卿に少し嫌味を言われた。
GM:訓練や検査の合間に人形卿たちと会う機会があれば君は会話を重ねる。
GM:人体卿が忙しい時を狙い美味しいものを食べた。
GM:そしてひと月ほど過ぎた。
GM:ベットの上で君は横になっている。
GM:投与された薬の影響か意識は少しも売ろうとして眠い。
GM:少し朦朧として眠い
GM:心電図の電子音が君の耳に規則正しく聞こえている。
GM:喋ろうとしても声は出ない。
検体番号67:「………」天井を眺めている。
ヴァーラ:「…では…で…なるほど」
GM:話声が聞こえる
人体卿:「ああ…そうだ」
人体卿:「結果が出ないのであれば仕方ない」
人体卿:「実験は68番に以降せざるをえない」
検体番号67:(……)(……は?)
人体卿:「これはクライアントの要望だ」
ヴァーラ:「なんとも…心が痛みます」
検体番号67:(ちょっと待って…今、何て言った?)
ヴァーラ:「まだ幼いというのに」
検体番号67:(ちょっと待って…待って、待って)叫ぼうとしても、声は出ない。
ヴァーラ:「で、パーツはどうなさいますか?廃棄するなら我々に預けてもらえれば」
ヴァーラ:「売り先はいかようにでも」
人体卿:「ダメだ。これは特別性だと言っただろう」
人体卿:「コクーンコアはクライアントの提供品だ」
人体卿:「遺伝情報もだ。まったく、無駄な仕事をさせてくれる」
人体卿:「僕の趣味ではないぞ、こんなのは」
検体番号67:会話が正確に頭に入ってこない。朦朧とした頭と身体がもどかしい。
人体卿:「結果さえでれば、こちらの研究の役にも立ったのに」
検体番号67:(結果)それを言われるたびに心が痛む。
ヴァーラ:「では、解体日時は?」
人体卿:「数日中にできるようい準備をしておいてくれ」
人体卿:「畏まりました」
ヴァーラ:「畏まりました」
検体番号67:視線だけ動かして、二人の男を見る。
検体番号67:その姿を瞼に焼き付ける。
ヴァーラ:「残念な結果です。彼女の戦闘力なら私の部隊に欲しいくらいでした」
人体卿:「ふん、戦闘力なんか意味は無いのさ」
GM:そして君は強烈な眠気に襲われ意識を失う。
GM:自室で君は目を覚ました。
GM:ベットと最低限の調度品しかない殺風景な個室だ。
GM:意識ははっきりとしていて先ほどの会話も記憶に残っている。
検体番号67:「っ」目を見開く。
検体番号67:一瞬後に記憶がどんどん蘇り、心臓がようやく早鐘のように鳴り始めた。
検体番号67:「や、ヤバ…そ、そう!死んじゃうの、あたし。このままじゃ…」独り言が始まる。
GM:コンコンと部屋の扉がノックされる
検体番号67:「……ッ」ビクッとする。「だ…誰」
ピーター:「なんだよ、ビビりかよ」
ピーター:「僕だ、ピーター・ロイド」
検体番号67:「ピーター!」悲鳴に近い声をあげて扉を開けます。
ピーター:「うっわ、何?」
ピーター:「怖い夢でも見たの?ハハハ」
検体番号67:「それのがよっぽどマシ!」部屋に引き入れ、バタンと扉を閉める。
ピーター:手にジャラジャラと鍵束を持っている。
ピーター:「ハァー」
検体番号67:「ねえどうしよう。あたし、このままじゃ、…」
ピーター:「このまま?」
ピーター:「何か知らないけどマスターが呼んで来いっていうから」
ピーター:「眠たいなか来たんだけど」
検体番号67:「……」
ピーター:「夜中だぞ。マスターの頼みじゃなけりゃ来ないからな」
検体番号67:「……」このタイミング、急な呼び出し。
検体番号67:それに意味があると、縋ってしまう。
ピーター:「眠れない夜にお茶でもいかがですか。だって」
ピーター:「流石マスター格好良いよな」
ピーター:といって鍵束を押し付ける。
検体番号67:「あ、う」
ピーター:「それ、食堂から中庭にでる鍵」
ピーター:「ここ、変な所はクラシカルだからな」
ピーター:「ふぁ…眠…」
ピーター:「じゃ、渡したからな」
検体番号67:「あんた、いいのね」
ピーター:「はぁ?」
ピーター:「何がだよ」
検体番号67:「あんたのことだから、ついてくるのかと思って」
ピーター:「僕は睡眠時間をしっかり取る派なんだ」
ピーター:「マスターも普段はそう言ってるし」
ピーター:「鍵を渡したら部屋で寝てろってさ」
検体番号67:「……………」
検体番号67:「分かった。ありがと」
ピーター:「言っとくけど」
検体番号67:「え?」
ピーター:「マスターの一番弟子は僕だぞ」
ピーター:「お茶会とかいつもしてるからな」
検体番号67:「……そりゃ…」
検体番号67:「羨ましいことだわ」
ピーター:「じゃ、お休み。マスターにも夜更かしはほどほどにって伝えといて」
GM:そういうとピーターは去っていきます。
検体番号67:「……うん」呟いて、鍵束に視線を落とす。
GM:食堂まではそう時間はかからないだろう。
検体番号67:(これ……この鍵束って)
検体番号67:心臓がドクドクと鳴っている。駆け足で食堂まで行く。
GM:食堂からテラス出る扉は鍵で簡単に開く。
GM:テラスから階段で中庭へ。
GM:中庭の中央にテーブルが一つあり。
GM:椅子に人形卿が座っていた。
検体番号67:「…………」息が上がっている。
人形卿:「こんばんは」
検体番号67:「こっ…こんばんは……」
人形卿:「月は雲に隠れてしまったけれど、良い夜だ」
人形卿:「でも、その顔」
人形卿:「何かあったんだね」
検体番号67:「…………し、知ってると思ってた」
検体番号67:「あたし」
検体番号67:「殺されるって。実験、うまく結果が残せなかったから」
人形卿:「…そうか。ある程度は予想できたけれど。それを君も知ってしまったか」
検体番号67:「人体卿が話してるの、聞いたから……」
人形卿:「知らないなら、知るべきだと思って呼び出したんだけれど」
人形卿:「知った上でここに来たという事は、怖かったはずだ」
人形卿:「僕が信用できるかどうか、解らないだろうに」
検体番号67:「………考えた」
検体番号67:「ピーターから、この鍵束を渡されたときに」
検体番号67:「このまま、一人で逃げればいいんじゃないかって」
検体番号67:「…でも、あたし」「あなたのとこに行くことにした」
検体番号67:「……その方が。良いと思ったから」
人形卿:「そうか」
人形卿:「では、君は外に出たいという願いを」
人形卿:「叶えたいんだね」
検体番号67:「当たり前でしょ!」
人形卿:「はは、悪い。当然の願いだ」
検体番号67:「そ、それに…それにっ」
検体番号67:「そのことを言わせて、あたしに優しくして、あたしの願いに火をつけたのは」
検体番号67:「あなたよ!」
人形卿:「そうだったな」
人形卿:「ではその責任をとらないといけない」
人形卿:「それならば、ここに来てくれたのは正解だ」
人形卿:「ここから一人で出る事はとても難しい」
検体番号67:「………」興奮で顔が真っ赤になっている。
人形卿:「ここは芸術卿の絵の中の世界」
人形卿:「道案内無しに外へでてもどこにもたどり着けない」
検体番号67:「えっ……」
検体番号67:途端に不安になって、キョロキョロと周囲を見回す。
人形卿:「この景色、この建物」
人形卿:「全てが彼女の創作物なんだ」
人形卿:「だから」
GM:少女の人形が君の手を取る
検体番号67:「ひゃっ…」
人形卿:「彼女についていきなさい」
検体番号67:「……!」
検体番号67:「あなたは来てくれないの」
人形卿:「森が出口になっている」
人形卿:「残念だが」
人形卿:「簡単に逃がしてくれるほど甘くはないからね」
検体番号67:「………あなたって」
人形卿:「足止めは必要さ、それにピーターをひとり置いていくわけにもいかないしね」
検体番号67:「悪い人なの?」
人形卿:「どうだろう、コレクションを集める為に手段は選ばない所はあるかもしれない」
検体番号67:「……」「……あたしには、良い人に見える」
人形卿:「そう言ってもらえると光栄だね」
検体番号67:「ありがとう、人形卿」少女の手をぎゅっと握る。
検体番号67:「ピーターによろしく」
人形卿:「ああ伝える」
人形卿:「森を抜けた先に僕の知り合いがいる手はずになっている」
人形卿:「少し気難しい人だが」
人形卿:「ヒースから紹介されたと言いなさい」
人形卿:「その人の弟子にと」
人形卿:「弟子入りすれば、君に生きる術を教えてくれるはずだ」
人形卿:「嫌がるかもしれないが、引き受けてくれるだろう」
検体番号67:「……」口の中でモゴモゴ繰り返す。「分かった。ありがとう」
検体番号67:「その人にしがみついてでも生きてやるわ」
人形卿:「良い人だから安心して」
人形卿:「さあ、もう時間が無い」
人形卿:「早く行くんだ」
検体番号67:「うん、ありがとう、人形卿……」少女に手を引かれ、走り出す。
検体番号67:「ありがとう!」振り向く。
人形卿:「元気で」
検体番号67:「あたし、あたしは…、唯一無二の、あたしになるから!」
検体番号67:「人間に!なるから!」
検体番号67:声が届いてるかも分からないが。
検体番号67:そう叫んだ。
人形卿:「それは楽しみだ」
人形卿:少女の声を聴く。
人形卿:「さて、ピーターには悪い事をしてしまうな」
芸術卿:「ねえ、ヒース」
芸術卿:「あんたバカなんじゃない?」
人形卿:「そうかもしれない」
芸術卿:「私の世界から逃げられるとでも?」
人形卿:「普通は無理だろうね」
人形卿:「でも」
GM:少女が走り去った方角の景色がパタンと倒れる。
芸術卿:「それ!」
人形卿:「知ってるだろう。森の絵だけを描き続けた男の話を」
芸術卿:「ちょっと!それ…星見塔胡じゃない!」
人形卿:「いつしか、男は自分の描いた森に消えたとか」
人形卿:「同じ系統の能力なら抜け出せる」
芸術卿:「それ、私が集めてるの知ってて隠してたの?最悪」
GM:倒れた絵が燃え上がる
芸術卿:「ぎゃッ!ちょっと何してんの!」
人形卿:「追わせるわけにはいかないからね。すまない」
骨董卿:「やれやれ」
骨董卿:「これでは、魔獣卿の自慢の獣でも後は追えまいな」
骨董卿:「で、あれば」
骨董卿:「我らの掟を思い出してもらうしかないが」
GM:サイケデリックな衣装に身を包んだ女性、芸術卿。
GM:和装に身を包んだ男、骨董卿。
人形卿:「仕方ない」
GM:人形卿は眼鏡を外す。
GM:傍らの少女人形が鞄からバイオリンを取り出し渡す。
芸術卿:「やる気、なのね?ヒース」
人形卿:「許してくれるなら有り難いけど」
魔石卿:「そりゃ無理さ」
GM:カラフルなスーツに身を包んだ男、魔石卿。
魔石卿:「俺達はそれぞれの蒐集品を集める為に」
魔石卿:「情報や手段を共有し協力している」
魔石卿:「そしてお互いの趣味にとやかく言うつもりもない」
魔石卿:「だがな、他人のコレクションに手を出すのはダメだ」
魔石卿:「人体卿はクソ野郎かもしれないが、そんな事は関係ない」
魔石卿:「あいつはセルに対する義務を果たしている。お前は掟を破った」
魔石卿:「だから、償いは必要だ」
人形卿:「解っている、たがタダでやられるつもりはない」
人形卿:「だけれど、一つ頼みがある」
魔石卿:「なんだい?」
人形卿:「僕の弟子の面倒を見てやってくれ」
魔石卿:「ま、いいだろう。引き受けよう」
魔石卿:「つーか、引き受けられんの俺くらいだろ」
芸術卿:「私は子供嫌いだし」
骨董卿:「骨董は奥が深い故、あの子には理解できまい」
魔石卿:「つーわけだ」
魔石卿:「つーわけだ」
人形卿:「感謝する」
魔石卿:「じゃ、まあ。死んでくれや」
GM:森の中は暗い
GM:真っ暗なトンネルの様な樹の隙間を抜けて君は走る。
GM:いつしか君の手を握る少女の人形は姿を消している。
GM:トンネルの先に光が見える。
GM:森を抜けた事を君は理解した
検体番号67:汗を流し、荒い息を吐いて。
GM:振り返ると、そこは何という事もない雑木林に姿を変えている。
検体番号67:光に目を細める。
検体番号67:「……………」瞬きする。
検体番号67:「…い」「いきて、生きてる」
検体番号67:「逃げれた…………」
検体番号67:茫然と呟く。
???:「あら?」
検体番号67:「ひゃっ!?」
GM:驚いたような声。
???:「驚くのはこっちだと思うんだけど」
GM:声の下法を見るとワイルドだが少し女性的な服を着た男が石に腰かけている。
???:「ヒースに呼ばれたんだけど」
検体番号67:「だっ…あっ……」心臓がばくばくと鳴っている。
検体番号67:「あっ!」
???:「誰?」
???:「ああ、なんか弟子とったとか言ってたわね」
GM:話し方は女性のようでもある。
検体番号67:「あ、あたし、ヒースに紹介されたんです!」詰め寄る。
GM:30~40くらいだろうか。
???:「紹介?」
検体番号67:「あなたの弟子にしてください!」
???:「は?」
???:「はぁぁ~?」
検体番号67:「人形きょ…じゃない…ヒースがそう言ったの!」
???:「
???:「良いわよ、人形卿でもヒースでも」
???:「クソ、あの野郎~」
???:「そろそろ君も弟子を取るべきだ。弟子は良いぞ」
???:「とか言ってたわね」
???:「こんな事になるまえにぶちのめしておけば良かったわ」
検体番号67:「…っ」アワアワする。「そうなの!そう!」
検体番号67:「だめ!だめ!」
???:「はぁ…」
GM:溜息をつく
???:「名前は?」
検体番号67:「弟子にしてください、弟子にして……」「…えっ」
???:「な、ま、え。あんたの名前」
検体番号67:「…………」
???:「そこからかー」
検体番号67:意味もわからず恥ずかしくなり、顔が真っ赤になる。
???:「あー…うん。なんとなくね。事情は察した」
???:「まずは名前を考えないとね」
???:「FHとかUGNって解る?」
検体番号67:「わかんない」首を横にふる。
???:「聞かれて嫌かもしれないけど」
???:「貴女、なんか実験とかそんな感じの扱いうけてた?それとも奴隷とか?」
検体番号67:「ううん、平気。実験を受けてました。戦わされたり、薬を注入されたり」
???:「そこが多分FHか、まあそうじゃなくても碌でもない所ね」
???:「十中八九FHだと思うけど」
???:「ま、それよりはマシなのがUGN」
検体番号67:「ゆーじーえぬ?」
???:「ま、その辺もおいおい教えてあげるわ」
???:「本当に丸投げじゃない」
???:「仕事環境は割とブラックだけどまあ正義って感じよ」
???:「私の所属してる組織ね」
???:「で、そうそう名前」
???:「私の名前を名乗ってなかったわね」
検体番号67:「あっ、おにい…おねえさ……」「……あなたの」
???:「お兄さんでもお姉さんでも良いわよ」
???:「火渡ヒロミ」
検体番号67:「………」その顔を、ぱちぱちと瞬きして見上げる。
火渡ヒロミ:「名前ね、わかる?」
検体番号67:「あっ、はい!火渡、ヒロミさん」
検体番号67:「ねえ、あたしを…弟子に、してくれるの?」
火渡ヒロミ:「ヒロちゃんとか呼んでも良いのよ」
火渡ヒロミ:「え?もう引き受けたつもりだったんだけど」
検体番号67:「うわっ………」
検体番号67:目を見開く。
検体番号67:「ありがとう、ありがとう!ヒロちゃん!」
火渡ヒロミ:「はいはい、よろしくお弟子さん」
GM:四年後
GM:揺れる車の助手席で君は目を覚ます。
火渡ヒロミ:「あら、起きた?」
仁奈川 伊由:「………ふぁ」欠伸。「寝ちゃってたぁ? ごめんヒロちゃん」
火渡ヒロミ:「良いわよ、寝てても」
仁奈川 伊由:着崩した制服。丁寧に整えた髪型。都会の女子高生といった雰囲気の少女。
GM:高速道路の標識が目的地を標している。
GM:『十海市』
火渡ヒロミ:「もう少しで着くから」
仁奈川 伊由:「はーい」車窓ごしに、それを見る。
火渡ヒロミ:「まあ、起きたのなら」
火渡ヒロミ:「行き先を説明するわ」
火渡ヒロミ:「今から行く街はFHの勢力圏」
火渡ヒロミ:「といっても支配力は緩め」
火渡ヒロミ:「UGNの支部は無いけれど町の有力者にコネがあるから」
火渡ヒロミ:「活動は問題なくできるわ」
仁奈川 伊由:「そ…そう? 『治安が悪くてUGNの肩身は狭い』って聞こえたけど」
火渡ヒロミ:「んー、間違ってはないんだけど」
火渡ヒロミ:「治安は良くないわ、ただし一見して悪いとはわからない」
火渡ヒロミ:「UGNがそうするようにFHも自分の支配圏を安定させるために」
火渡ヒロミ:「情報はそれなりに隠蔽している」
火渡ヒロミ:「だから普段の生活は問題ないわ」
火渡ヒロミ:「伊由は私の知り合いのお婆ちゃんの家で暮らして学校にも通える」
火渡ヒロミ:「ただ、行方不明の数が多い」
火渡ヒロミ:「人口に対して、明らかに」
火渡ヒロミ:「その調査が私達の当面の任務、OK?」
仁奈川 伊由:「…OK。FHが悪いことしてるんなら、止めなくちゃね」
仁奈川 伊由:「あたしみたいな子、増やしてたまるもんですか」
火渡ヒロミ:「ま、そうね。ただUGNの肩身も狭いってのは事実だから」
火渡ヒロミ:「現地で協力者を集める必要があるわ」
火渡ヒロミ:「その辺も、ある程度コネがあるから」
GM:そんな話をしていると。
仁奈川 伊由:「さっすが」笑う。
GM:街が見えてくる。
GM:日本海に面した地方都市。
GM:K府十海市。
GM:どんよりとした空から白い粒がフワフワと舞い落ち風に流されている。
火渡ヒロミ:「寒いと思ったら雪?」
火渡ヒロミ:「もう3月なのに」
仁奈川 伊由:(ああ、だからか)目を細める。
仁奈川 伊由:先ほど見た夢。4年前のあの日、森をさまよった時も。
仁奈川 伊由:ちょうどこんな、季節外れの雪が降っていた。
仁奈川 伊由:「やだね、こういうの」
仁奈川 伊由:「変な偶然、起こりそうで」
仁奈川 伊由:「あたし、そういうの」
仁奈川 伊由:「───だいっきらい!」
仁奈川 伊由:笑い飛ばすように、そう言った。
GM:過ぎ去った過去の夢に手は届かない。
GM:諦めてしまえば。
GM:死ぬまでの僅かな時間を平穏に過ごせるだろう。
GM:だが、君はそうしなかった。
GM:その日、君は差し伸べられた手を掴み。
GM:少女は外へと足を踏み出したのだから。
GM:
GM:『十海怪奇譚』第零話 sideA 四年前『冬の話』
■『十海怪奇譚』第零話 sideB after
一年前『火車の話』
店員:「ありがとうございました」
GM:休日。
GM:君は街に出かけていた。
GM:それなりの規模のショッピングモールは。
GM:買い物客で賑わっている。
壱条ゆゆ:「……」 店員に会釈し、踵を返す。紙袋を提げる。中身は日用品や消耗品など。
壱条ゆゆ:「……そうだ。参考書」 警察学校では、もっと娯楽をだの遊べだのと言われているが。
壱条ゆゆ:愛想がないのも、遊びがないのも、治るとは思わないし、必要もない。
GM:歩いている君に前方から歩いてきた男がぶつかります。
挙動不審な男:「痛てッ…」
壱条ゆゆ:「……あぁ、すみません」
挙動不審な男:「クゾ…邪魔なんだよ…」
壱条ゆゆ:軽く会釈するが、睨むような目になってしまう。
GM:男はブツブツ言いながら君を一瞥すると歩き去っていく。
壱条ゆゆ:「…………。」 眉をひそめ、その背中をしばらく見送る。
壱条ゆゆ:「……っと。ダメダメ……」
壱条ゆゆ:まだ自分は新人でもない訓練生だ。だが、つい、気になってしまう。
GM:君は足元に何かが落ちているのに気付く。
壱条ゆゆ:「……?」
GM:銀色に輝くそれは、オイルライターだ。
壱条ゆゆ:拾い上げる。「……。……」
GM:まだ少し暖かい。
壱条ゆゆ:「今の人が、落としたのかな」 分かり切ったことを呟いて、
GM:使用した直後といった感じで。
GM:着火部分に煤がついている。
壱条ゆゆ:「……っ」 熱い。モール内は全面禁煙だ。男の後を追おうとする。
GM:その時、焦げ臭いにおいが君の鼻をつく。
壱条ゆゆ:同時に、男がやってきた方向も確認しようとして――「!」
壱条ゆゆ:「これっ……!」
GM:男がやってきた方向には多目的トイレがある。
壱条ゆゆ:匂いの方へと駆けだす。
GM:車椅子などで利用するため、それは完全に個室。
GM:ボン!
GM:破裂音と共にトイレの扉が吹き飛び炎が噴き出す。
壱条ゆゆ:「!」
壱条ゆゆ:口元を抑えて、顔を庇う。
GM:火災報知器のベルが鳴る。
壱条ゆゆ:「……火事です! 皆さん、離れて!」
GM:買い物客は一瞬パニックになりかけるが君の指示をうけて避難を始める。
壱条ゆゆ:叫びながら、近くの壁にマップがないか探す。
GM:すぐに見つけることができます。
壱条ゆゆ:「危ないです! 離れて下さい! どなたかスタッフに連絡を!」 人を遠ざけながら。消火器の位置が乗っているはずだ。
GM:消火器の場所が記載されています。
壱条ゆゆ:炎の勢いはどの程度ですか?
GM:少し離れた店舗と店舗の間くらい。
GM:かなりの勢いで燃えています。
GM:更に衣類を扱う店舗が近くにあり燃え広がるのも時間の問題でしょう。
壱条ゆゆ:「くっ」 火の勢いが強すぎる。非難を優先すべきと判断。
GM:スタッフも避難誘導を開始しており。
GM:客は比較的スムーズに出口や非常口へと向かっている。
壱条ゆゆ:「……よし。これなら……」
壱条ゆゆ:避難が問題なければ、さきほどの男を追うべきか。
子供:「…ーん。うぇえーん」
子供:「ママァー…」
壱条ゆゆ:「え!?」
GM:上の方から鳴き声が聞こえる。
GM:吹き抜けのフロアを見上げると三階のあたりに小さな人影が見える。
壱条ゆゆ:「迷子……!? なんて……っ」
子供:「ママァー…どこー」
壱条ゆゆ:「そこのきみ! そこは危ないから、離れなさい!」
壱条ゆゆ:吹きぬけから呼びかけるが、反応は悪い。
壱条ゆゆ:「くっ!」 逡巡は一瞬。近くの炎の横を通り抜けて、階段を上る。
GM:にゃあ。
GM:君の足元を小さな影がすれ違ったような気がしたが…それを気にしている余裕はない。
壱条ゆゆ:「――、?」ハンカチを口元に当てつつ、上着を脱ぐ。しなやかなフォームで三階へ辿りつく。
子供:「ゔえぇー…ぐす」
壱条ゆゆ:「だいじょうぶ!? 」
子供:「ママは?ママァー」
壱条ゆゆ:言うが早いか、上着を子供に頭から被せ、身を屈めさせる。
子供:「うっ…ぐす」
壱条ゆゆ:「ママなら一緒に探してあげるから! お願い、じっとしてて!」
子供:「ひぐ」
壱条ゆゆ:「っ、げほっ……!」煙が吹きぬけから昇ってくる。
GM:泣きながら頷く
壱条ゆゆ:「だいじょうぶだからね……!」 子供を抱え上げる。そのまま、吹きぬけになるべく背を向けて、階下へと。
GM:階段の方から火の手が上がる
壱条ゆゆ:「くっ……!!」
GM:バリン!
GM:エントランスの窓が割れる音がする。
壱条ゆゆ:足を止める。火の勢いは増すばかりだ。まずい、まずい――
壱条ゆゆ:「!」
消防隊員:「おい!こっちだ!はやく!」
壱条ゆゆ:「子供が一人! 体重20キロほど!」
GM:窓のそとから消防隊員が君を呼ぶ。
消防隊員:「解った!」
壱条ゆゆ:「今そっちに!」 と、抱えて窓へと近づく。
消防隊員:「一人ずつだ、焦らないで」
子供:「ゔぇ…ぐ」
消防隊員:「よーし、良い子だ」
壱条ゆゆ:「大丈夫だから、もう少し頑張るのよ」 煙を吸わせないよう、子供を抱え込むようにしながら
壱条ゆゆ:隊員へと引き渡す
壱条ゆゆ:「おねがいします!」
消防隊員:「解った、すぐ戻る。なるべく姿勢を低くして」
消防隊員:「煙を吸わないように!」
GM:はしご車が下へと降りていく。
壱条ゆゆ:「はい、その子を」 言葉を最低限に頭を下げて、身を伏せる。
GM:煙が君を包み込んでいく。
壱条ゆゆ:「ふーっ、ふーっ……」
GM:にゃあ。
壱条ゆゆ:荒れた呼吸を抑える。
壱条ゆゆ:「……、……?」
GM:君の意識が少しずつ。薄れていくのが自覚できる。
GM:にゃあ、にゃあ。
壱条ゆゆ:目が霞む。煙が回る。
GM:ギィ…ギィイ。
壱条ゆゆ:意識は鮮明なまま、口元を抑えていた手から、力が抜ける。
壱条ゆゆ:「(……こんな。ところで)」
壱条ゆゆ:「(しぬのかな。なにも。できずに、…………)」
GM:木の軋む音。
GM:猫が鳴いている。
壱条ゆゆ:「(ごめんね。ごめんなさい、おねえ――)」
???:(罪の匂いじゃ)
壱条ゆゆ:「……? …………」
???:(止めよ、猫ども)
壱条ゆゆ:ねこ。木。きしむおと。
GM:にゃあ、にゃあ。
壱条ゆゆ:いきを、おさえて。しせいを、ひくくして。
???:(罪人の匂いがする)
壱条ゆゆ:罪人。ああ……誰。だれのこえ。
壱条ゆゆ:「……だれ。罪人(わたし)を、よぶのは、だれ……」
???:(そして忌々しい獣の残り香よの)
GM:にゃあ。
壱条ゆゆ:うつ伏せに倒れる。
GM:クツクツと嗤う。
壱条ゆゆ:建物を満たす煙と、床を足元を跳ねる、伸びをする炎。
???:(面白い、
???:(面白い)
壱条ゆゆ:炎? 炎はそんなことはしない。赤く、輝く、燃え盛る。猫の足?
GM:君の顔を覗き込む目。
GM:そして角。
壱条ゆゆ:酸欠で顔を青くしながら、首を捻って、それを見上げる。
???:(お前は罪人ですらない)
???:(だが、餌にはなろう)
GM:にゃあにゃあ
壱条ゆゆ:えさ。ざいにん。ほのお
???:(お前が…罪人を追うならば力を貸してやろう)
壱条ゆゆ:ねこ。だれ。ああ、なんて、ばかげた、――
???:(猫ども、火車の力を)
壱条ゆゆ:ちから。ちからを
???:(せいぜい、喰いでのある獣を惹きつける事じゃ)
GM:にゃあ、にゃあ、にゃあ。
壱条ゆゆ:何を言っているのか分からない。けれど、ああ、炎が近づく。声が近づく。
壱条ゆゆ:それを手にとれば、自分はここから生き残れるのだと。
壱条ゆゆ:理屈ではなく、もっと深いところで理解する。
壱条ゆゆ:「……てを。」
壱条ゆゆ:必死に、手を伸ばす。割れた硝子が腕を傷つける。構うことはなく。
壱条ゆゆ:「力を、くれるなら。手を、かして……っ!」
GM:にゃあ。
GM:猫の泣き声が。
GM:君の中に入ってくる。
壱条ゆゆ:「……う、あ!?」
???:(しばし、間借りさせてもらうとしようか)
壱条ゆゆ:途轍もない、熱。自分の心の、もっとも奥底の想いを薪にして燃え上がる炎。
壱条ゆゆ:「~~~~~~っ!」 痛んだ喉で、吼声とも悲鳴ともつかない音を出して、
壱条ゆゆ:……それも、やがて煙と炎に呑まれ、意識を失った。
GM:某県、商業施設で火災発生。
GM:現場に居合わせた警察官訓練生Iの適切な避難誘導によって奇跡的に被害者は出なかった。
GM:訓練生は軽傷を負ったものの無事に帰還。
GM:警察学校で表彰される。
GM: 全国紙、社会欄より。
GM:翌年、彼女は十海市警察署「特別犯罪対策室」に配属された。
■キャラクター紹介&次回予告
GM:これで前日譚は終了。
GM:自己紹介に移って行こうかと思います。
GM:ではPC①の仁奈川さんから。
GM:よろしくお願いします。
仁奈川 伊由:はーい!
仁奈川 伊由 キャラシート(PL:めかぶ)
仁奈川 伊由:仁奈川伊由(にながわ・いゆう)です。17歳の女子高生で、UGNチルドレン。
仁奈川 伊由:今回語られた経緯のとおり、4年前に人体卿の元から逃げ出した、元実験体。
仁奈川 伊由:気付いた時には人体卿に捕まって実験を受けていたため、自分の出身や本名を知りません。
仁奈川 伊由:とはいえこの4年間はヒロちゃんのもとですくすく育ち、人生って楽しいな~と思い始めた頃合いです。
GM:よかった。
仁奈川 伊由:実験体時代、人体卿から自分の中にある「何か」を発揮することを期待されては失望されていたことがトラウマになり、
仁奈川 伊由:『特別』や『運命』といった、自分ではどうしようもできないことを嫌うようになりました。
GM:なるほど。
仁奈川 伊由:そのことと、更に別な理由もあり、特にオカルトを断固として否定しており、
仁奈川 伊由:この世のすべてはレネゲイドと科学で説明できると豪語しています。
仁奈川 伊由:シンドロームはソラリス/オルクス。《アニマルアタック》を起点とした交渉攻撃キャラです。
仁奈川 伊由:自分だけに見える妖怪のようなものを使役して戦います。
仁奈川 伊由:これがオカルトを否定する最たる理由で、自分は、自分だけが見える妖怪について
仁奈川 伊由:「実験体時代のストレスが生んだ幻覚」と言い張っています。
仁奈川 伊由:そんな感じ!思ったことはそのまま言っちゃうような性格です。
仁奈川 伊由:以上!よろしくお願いします!
GM:いいですね、言いたい事を言える子は素敵です
仁奈川 伊由:わーい
GM:学校にも通えるのでクラスメイトとかもできちゃうかも
仁奈川 伊由:嬉しい!学校大好き
GM:年上に囲まれちゃうけど頑張ってくださいね
仁奈川 伊由:はあい。きっと頼れる大人がいっぱいなんだろうな~
仁奈川 伊由:がんばります!
GM:はい。
GM:ではPC②、露野さんお願いします。
露野 勲:はい!
露野 勲 キャラシート(PL:ロケット商会)
露野 勲:露野勲(つゆの・いさお)です。探偵です。
GM:探偵、良いですよね探偵。
露野 勲:過去の経験からまっとうな社会進路からドロップアウトし、裏社会の秘密をかぎまわれるような仕事を探したところ……
露野 勲:探偵に落ち着きました。普通に人探しとか内偵調査も請け負いますが、仕事の合間にはオカルトが絡んでそうな事件を追っています。
露野 勲:これは個人的な趣味であり、探偵という超・多忙な仕事の合間にやっているので、めっちゃくちゃ生活が荒んでいます。
露野 勲:それでも体調を崩さないのは、その身にやどった不思議オーヴァードパワーのおかげ! 驚異的な再生能力と人体復元能力!
GM:凄いパワー
露野 勲:この能力を活かして戦闘したりします。探偵としての腕の方は……まあ……25歳にしてはがんばっている方な感じです。
GM:まあ、それでもそこそこ依頼人はいるんじゃないかな
露野 勲:だと嬉しいです! もちろん個人的な目的は、神隠し事件の調査です。
露野 勲:オカルトを否定はしないし、むしろ検証した上でのオカルトなら、今度こそ”本物”かもしれないと思って挑んでいくようなところがあります。
露野 勲:むてっぽう!
露野 勲:能力スペックは、ヘボいダイス量を剣精の手で強引にカサ増しして、骨の銃で撃つ! カバーリングもやる! というちょっと多芸な方向を目指しています。
露野 勲:そんなところです! よろしくお願いいたします!
GM:はい、よろしくお願いします。
GM:ではPC③、壱条さんお願いします。
壱条ゆゆ:はーい
壱条ゆゆ キャラシート(PL:アスハル)
壱条ゆゆ:「《九生篝火(シンドレッド・キティ)》、壱条ゆゆ。新人ですがよろしくお願いします。……キティって呼ばないでください。……ゆゆも駄目です!」
壱条ゆゆ:そういう感じの新人オーヴァード警官です。
壱条ゆゆ:事件によって、かつての活発元気っ娘はドブに捨てており、
壱条ゆゆ:地元にも居られず、せめて警官として人を助けることで償いになるのではないかとキャリアルートに進んでいました。
壱条ゆゆ:が、OPの通り、放火事件に巻き込まれてオーヴァードとして覚醒。
壱条ゆゆ:古代種の超自然レネゲイド存在、『火車』と契約しています。
GM:ねこちゃんに憑かれてしまった
壱条ゆゆ:カワイイカワイイネコチャン……
壱条ゆゆ:能力はピュアサラマンダー運転型。
壱条ゆゆ:シナリオ一回のアーティクルリザーブによって調達と搭乗を同時にこなし、
壱条ゆゆ:《煉獄魔神》で敵対者を牽き殺します。
GM:轢殺!
GM:恐るべきパワーだ
壱条ゆゆ:ただオーヴァードとしても経験が浅いため、どちかというと《閃熱の防壁》による防御のが強いかも
壱条ゆゆ:あとは警官なので、社会はそこそこ。……ピュアサラなのでそこそこ。
壱条ゆゆ:一見まともに成長していますが、根っこでは事件に関して深い深い罪悪感を抱えており、
壱条ゆゆ:克服したように見えるトラウマを、おねえちゃんそっくりの存在にそこそこ抉られていく運命の悲しい子です
GM:かなしい
GM:猫がついてるから元気出して
壱条ゆゆ:やさしくしてね
壱条ゆゆ:猫を吸う……(じゅっ)
壱条ゆゆ:というわけで頑張ります。よろしくお願いします。
GM:はい。
GM:ではPC④、風見さんお願いします。
風見将吾:はいはーい
風見将吾:立ち絵を設定してなかった
風見将吾:あっできたできた
風見将吾 キャラシート(PL:クオンタム)
風見将吾:風見将吾(かざみ・しょうご)。フリーのルポライターです。
風見将吾:幼いころはめちゃくちゃ真面目な少年でしたが、神隠し事件の真実を暴くためにオカルトおよびジャーナリズム方面に傾倒し
風見将吾:実家の古武道道場を弟に押し付け、十海市を拠点としてあちこちを回るうさんくさライターおじさんになりました。
風見将吾:無精髭とボサボサ髪のせいで、たぶん実年齢+10歳くらいは老けて見えると思います。
風見将吾:(ヒゲを剃って髪の毛をちゃんとすると露野・壱条と同い年くらいに見えるよ!)
GM:弟にうるさく言われそう
風見将吾:ごめんな祐二・・・でも兄ちゃんやるべきことがあっからさ・・・
風見将吾:仕事のスタンスも露野くんと割とかぶっており、普通の雑誌向け記事(犯罪とかコロナ対策とか)も書くんですが
風見将吾:行方不明事件、オカルト関連だけはめちゃくちゃ首を突っ込む傾向にあります。
風見将吾:シンドロームは誇り高きピュアエグザイル。
GM:ピュアエグだ
風見将吾:死招きして殴って対抗種するだけのカンタン設計です。たぶんアクションゲームだと一番初心者向けって書かれるやつ。
風見将吾:元・真面目武道少年という立ち位置を生かして、ヘラヘラ笑いつつ時々場の空気を〆る感じのロールをできたらいいな~。
風見将吾:以上です! どうぞよろしく!
GM:はい、よろしくお願いします。
GM:では以上のメンバーでキャンペーンをやっていきます。
GM:改めてよろしくお願いしまーす。
風見将吾:イェイイェイ!
露野 勲:うおーっ!
仁奈川 伊由:ヒャア~ッ
壱条ゆゆ:ゲハハハ~ッ
GM:というワケで次回予告!
GM:「連続怪死事件って知ってます?被害者はまるで動物に食い荒らされたみたいになってるって噂ですよ。」
GM:「君の仕事は捜査じゃない。余計な詮索をされないように事件を迷宮入りさせる事だ、理解したかね」
GM:「人が消えてやがるのさ何人も。依頼はそのうちの一人を探す事、アンタの得意分野だろ?」
GM:「ぴよちゃんが居なくなっちゃったの」
GM:「とても喜ばしい、そして悲しい事です」
GM:四月。
GM:桜の季節。
GM:街から人が消えていた。
GM:誰にも気付かれないほど、ほんの少し。
GM:連続怪死事件の事を人々は知らず。
GM:平穏な日々を過ごしている。
GM:だが、この街には。
GM:怪異と悪意が。
GM:存在する。
GM:『十海怪奇譚』第壱話 四月『人喰いの獣の話』
GM:近日開催予定です。
GM:それでは第零話はこれで行程終了です
GM:お疲れさまでしたー
仁奈川 伊由:おつかれさまでした!
壱条ゆゆ:お疲れ様でした!
露野 勲:お疲れ様です!